エジプト第19王朝ラメセス2世(在位前1279-1213)

旧来の解釈によれば、イスラエル人たちを厚遇した王朝は紀元前1730年頃から紀元前1580年のヒクソス(よその土地の王の意)であり、ユダヤ人を迫害したのはアーモセス第十八王朝、モーセのエジプト脱走は諸説あるものの、前13世紀のエジプト第19王朝ラメセス2世(在位前1279-1213)の時代である。しかし、文書資料が豊富なエジプト側には一切の記録が無いことから、旧約聖書にあるような壮年男子だけで60万人という大規模な脱走事件が起きた(出エジプト12:37、民数記1:46)という訳ではなく、ごく少数者の脱走事件であったのだろうと推定する学者もいる[10]。が、エジプトが自身の不利益な記録を残していないことが多いため、エジプト側の記録がないだけで否定されるものではない。前述のイスラエル部族連合の中に「カリスマ的指導者に率いられてエジプトから脱出してきた」という伝承をもつ部族があって、その伝承が部族連合全体に広がって共有されていったのだろう。さらにエジプト脱出の伝承に、シナイ山における神の顕現に関する伝承が結び付けられて、シナイ山での契約の物語が成立したものと考えられている。